構造的心疾患(SHD)カテーテル治療の多施設レジストリーグループ『OCEAN-SHD研究会』
Optimized CathEter vAlvular iNtervention Structual Heart Disease

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TAVIの残された課題:弁留置後の冠動脈カテーテル

2022年2月19日  著者:新東京病院 長沼 亨  SHDの最新話題TAVI


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2013年10月に本邦でもバルン拡張型であるEdwards Lifesciences社Sapien XTを用いた経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)が開始されました。2016年1月に自己拡張型であるMedtronic社CoreValveも使用可能となり、現在はそれぞれSapien 3、Evolut PRO plusに改良されています。デバイスが細くなったことにより血管合併症は減少し、また人工弁のデザインの変更によりTAVIのアキレス腱である弁周囲逆流や房室ブロックも減少しています。ただ、外科弁と大きく異なるのがステントフレームの存在であり、これがTAVI後の冠動脈カテーテルを難しくしています。TAVIの場合は基本的に回転方向の位置調整は困難であり、特に冠動脈起始部の前にカテーテル弁(TAV)の交連部が位置してしまった症例ではその後の冠動脈カテーテル手技が極めて困難となります。Evolutのフラッシュポートを3時方向に向けて大動脈弁までデリバリーすることで自己の3尖とEvolutの3尖を合わせる試みがなされていますが、まだまだ確実とは言えません。房室ブロックを避ける為に高めにTAVを留置した症例でもカテーテルは難しくなります。以前は外科手術が高リスクと判断された高齢者や重篤な併存疾患のあるフレイルな患者さんのみがTAVIの適応でしたが、その後中等度・低リスクの患者さんにおいても良好な臨床成績が報告され、2021年8月に保険適応が改訂されました。今後これまでよりも比較的若い層にTAVIが選択され、その後に冠動脈カテーテル検査・治療が必要となる機会が増えてくるでしょう。旧世代のSapien XTよりも新世代のSapien 3の方が縦方向にフレームが長いこと、また、自己拡張型弁であるEvolutの縦の長さは45mmもあり弁輪から上行大動脈までバルサルバ洞を完全に覆ってしまうこと、など基礎的な知識がTAVI術者以外にも必要となってきます。さらに人工弁の詳細な構造(セルのサイズや数、スカートの長さ、交連部の高さ等)を識り、CTなどで冠動脈起始部との位置関係を把握することがTAVI後の冠動脈カテーテルを成功させる第一歩となります。冠動脈分岐部病変に対するカテーテル治療の専門家でもある私には、大動脈と冠動脈起始部の関係は冠動脈の本幹と側枝の関係に似ているように感じられます。これまで長きにわたって冠動脈分岐部病変に対する至適なストラテジーについて議論がなされ、その臨床成績は向上してきました。現状では、TAVI後の冠動脈へのアプローチについては、既存の道具を用いて高いカテーテル技術力で対処するほかやりようがありませんが、必ずや克服できると信じています。将来的に、カテーテルが通過し易いようにセルの形状を変更したり、TAVを容易に回転できるメカニズムを追加したりと、さらにデバイスが改良されることを期待しています。生体吸収素材を用いたフレームを使用することでTAVが自己組織にある程度癒着した後でフレーム部分は徐々に消えて無くなり冠動脈の前がフリーになる、いつかそのような時代になるのかなと想像しています。