構造的心疾患(SHD)カテーテル治療の多施設レジストリーグループ『OCEAN-SHD研究会』
Optimized CathEter vAlvular iNtervention Structual Heart Disease

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不整脈医からみた経皮的左心耳閉鎖術

2022年2月13日  著者:札幌東徳洲会病院循環器内科  谷 友之 先生  SHDの最新話題LAAC


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私が不整脈治療を志したのは、循環器医師となった後、すぐのことでした。当時、カテーテルアブレーションに て心房細動が治療できることを知り、非常に衝撃を受けたことを未だに鮮明に覚えております。カテーテルアブ レーションに従事して 10 数年経ちますが、デバイスの開発・改善と共に年々治療成功率も上がっており、心房 細動治療の柱の一つであることは言うまでもありません。しかし同時に、カテーテルアブレーションのみで全て 解決できるわけではなく、現状では限界もあることを認めざるを得ません。 その一つとして、再発の可能性とこれによる【CHADS2 score2 点のジレンマ】があります。残念ながら心房細 動アブレーションの無再発率は 100%ではなく、一定確率での再発があり得ます(Piccini JP, et al. Lancet 2016; 388: 829-840.)。日本循環器学会のガイドラインでは、塞栓症リスクの高い CHADS2 score2 点以上の患者様につ いて、心房細動アブレーションの治療効果に関わらず、抗凝固療法継続が推奨されております日本循環器学会.不 整 脈 非 薬 物 治 療 ガ イ ド ラ イ ン (2018 年 改 訂 版 ) https://www.j-circ.or.jp/cms/wpcontent/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf (2022 年 1 月閲覧)。この為、「先生に治療して貰ってから 発作はないけど、抗凝固療法はいつまで続けるのですか?治ったのではないのですか?」という問いに、「治って いるように思えるけど、再発の可能性はあるので念のため飲み続けてください。」という対応になってしまいま す。これは患者様に抗凝固療法による出血リスクや経済的負担を強いることとなり、こちらとしても心苦しい面 があるところです。この問題を経皮的左心耳閉鎖療法が解決してくれるのではと期待しております。 私は2017年にシカゴで開催されたHeart Rhythm Society’s 38th Annual Scientific SessionsのLive Demonstrationに参加しましたが、クライオバルーンでの心房細動アブレーションと経皮的左心耳閉鎖術の同時 施行を見ることができました。手技時間は1時間を切っており、「日本でもこのような時代が来るのだろう。」と 非常に感銘を受けました。実際、欧米では心房細動アブレーションと経皮的左心耳閉鎖療法の同時施行を行っ た報告があります。349例の検討で手技施行直後には抗凝固療法が94.0%に使用されておりましたが、1年後に は15.1%となっており、患者背景のCHA2DS2-VASC scoreとHAS-BLED scoreからの予測値と比較してではあ りますが、塞栓イベントが0.7%(risk reduction -78%)、出血イベントが1.1%(risk reduction -71%)といずれの イベントも減少させることができると報告されております(Wintgens, L. Europace, 2018 20(11), 1783– 1789.)。また別の報告では、経皮的左心耳閉鎖療法を行っても心房細動アブレーションの無再発率には影響が ないことも示されております(Mo, B. F. Journal of Interventional Cardiology, 2020 https://doi.org/10.1155/2020/8615410.)。現時点では本邦の経皮的左心耳閉鎖療法の適応は出血性リスクにつ いてのみとなっており、同時施行についても保険区分の問題がありますが、今後、心房細動アブレーションと 同時施行や順次施行を適応とする場面が出てくるのではないかと思います。 私のような不整脈医として業務に従事している者は、心房細動の患者様の発症から治療まで、全てのフェイズで 関与することになりますので、新たな治療の武器が増えることは非常に歓迎されることです。その恩恵を患者様 方が広く受けられる様、OCEAN Registry よりたくさんの報告ができることを願っております。