構造的心疾患(SHD)カテーテル治療の多施設レジストリーグループ『OCEAN-SHD研究会』
Optimized CathEter vAlvular iNtervention Structual Heart Disease

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TAVIとSAVRの切磋琢磨

2021年5月26日  著者:東京ベイ・浦安市川医療センター  心臓血管外科 虎の門病院 循環器センター外科 田端 実  TAVISHDの最新話題


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2010年に行われた治験でTAVIに関わり始めて10年以上が経ちました。当時はまだまだ合併症が多く、30日死亡率が10%を超える手技でしたが、その後デバイスやテクニックの進化、患者選択の適正化などによって現在では30日死亡率が1%台にまで改善したことは周知の事実です。私自身も治験や保険診療の初期は経心尖TAVIのみを術者としてやっていましたが、今では自身で行うあるいは指導する手技はほとんどが経皮経大腿TAVIであり、それが多くの高齢者AS患者にとって最良の治療であると考えています。ただし、高齢であってもSAVRや経大腿以外のTAVIが最良の選択であるケースもあり、ハートチームとしてこれらすべての選択肢を持つことが重要です。

 

TAVIとSAVRの両方をやっていると、それぞれから学ぶことがあります。SAVRから学んでTAVIを進化させる、TAVIから学んでSAVRを進化させる、ということです。

SAVRから学ぶTAVIのポイントのひとつは解剖的適合性です。例えばrapheの石灰化が高度な二尖弁のTAVI成績が不良というスタディ結果がありますが、これまで多くの二尖弁を生で見ていると高度石灰化のrapheを有する弁尖がバルーンや自己拡張フレームで動くものではないというのは容易に理解できます。今ではカテーテル弁を高位に留置すると術後ペースメーカー植え込みが少ないというのがTAVIの常識ですが、SAVRでは何十年も前から常識です。

一方TAVIから学ぶSAVRのポイントも多くあります。正確にはTAVIに刺激を受けてといったほうが正しいかもしれません。TAVIの低侵襲さに少しでも近づこうと胸骨を切らないMICSアプローチが増加したり(東京ベイ・浦安市川医療センターと虎の門病院では単独SAVRの80%以上がMICSアプローチ)、TAVI後の優れた血行動態に近づこうとより大きな生体弁を留置するようになったり(東京ベイ・浦安市川医療センターと虎の門病院で生体弁SAVRの75%以上が23mm以上の大きな弁)、TAVI後のペースメーカー率低下に刺激を受けもともと低いSAVRのペースメーカー率を限りなくゼロに近づけるための新たな人工弁縫合方法を開発したり(Gen Thorac Cardiovasc Surg 2021;69:254-259)、という感じです。

 

低リスク患者へのTAVI適応が承認され、今後TAVIの恩恵を受ける患者はますます増えるでしょう。しかしTAVI選択の敷居が下がることでTAVIに不向きな患者にTAVIが選択されるリスクも増えるかもしれません。冠動脈疾患の領域では似たようなことがありました。すべてのAS患者がそれぞれに最適な治療を受けられるようにするには、TAVIとSAVRを共に向上させ続けてバイアスのない治療選択ができる医師やハートチームの役割が大きいと考えます。