構造的心疾患(SHD)カテーテル治療の多施設レジストリーグループ『OCEAN-SHD研究会』
Optimized CathEter vAlvular iNtervention Structual Heart Disease

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透析患者さんへのTAVI

2021年4月19日  著者:小倉記念病院 白井伸一  TAVISHDの最新話題


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ついに、というべきなのか、やっとと言うべきなのか、透析患者さんへのTAVIが保険償還となった。

今回の透析患者さんのTAVIが保険償還されたことを受けてこのブログを私が担当させていただくこととなった。口は回るが文章はやや苦手な私である。少し毛色を変えたお話をさせていただく。

「人はなぜ山に登るのか、そこに山があるからだ」、というのはイギリスの登山家ジョージマロリーの言葉だが、さしずめ「なぜTAVIをするのか、そこに症状に苦しむ患者があるからだ」というのはアルピニストならぬTAVIst(タビストいやタヴィストというべきか?)の心情ではないかと思われる。

思えばTAVIstはTAVIが本邦に導入されたのちに多くの山を登ってきた。

初期の頃は近所の小山でも息を切らして登ったのではないだろうか。今から振り返れば、通常通りに治療が可能な症例でも、寿命が縮む思いをして治療をしたのはみなさんにとっては懐かしい思い出ではなかろうか。

ViVは3000m級の、高度石灰化病変は4000m級の山であり、二尖弁は5000m級の山であろうか。いずれも添付文書では禁忌あるいは注意とされていた症例である。また全身麻酔という重装備からConscious sedationへと最低限の装備でもそれらの山々を登ることが可能になってきた。いずれの山々も下界から見上げれば「こんな山登れるのか」と思われるほどの高く険しい山ではなかったのではないだろうか。しかし、結果としてOCEANのメンバーをはじめとする日本全国のTAVIstはそれらの山々を踏破してきた。

そして行き着いたのがこの透析患者さんへのTAVIである。

この透析患者さんのTAVIは山に例えると8000mの山のようには実は見えない。過去に経験した患者さんの解剖と全く同じという意味では「過去に登ったことのある山」なのではないだろうか。ただ、その登山の季節は冬。凍てつく山々は方向感覚を失わせあらゆる感覚を麻痺させるだけでなく、登るものの意思を挫くものと言われている。

そして何より登る前には「そんなに」高くは見えないというのが何よりも登る感覚を狂わせる。いうなれば透析のTAVIはTAVI界のラスボスだと思われる。

そう言った意味では最初から冬山に挑戦をさせなかったことは我々に対するPMDAの親心何だろうと思っている。

その反面、このMt. HD(透析のTAVIの山々)は登る必要があるから、登らないといけないから、そして登るしか方法がないから登るべき山なのではない。踏破を希望しているのは我々ではない、実は透析患者さん自身が本当は待ち焦がれていたものなのである。

論文では透析のTAVIは非透析の患者さんよりは成績が悪いということが喧伝されている。あたかも冬山は怖いと言われている。しかし透析の患者さんではTAVIをする方がしない患者さんよりも成績が良い、ということが我々の治療へのモチベーションである。そして日本は世界に比べてその透析患者の長寿を達成できている国であり他国と比べてその頂はかなり高い場所にあるのである。

全国のTAVIstたちよ、患者さんのためにその頂を目指して困難に立ち向かいながら立ち向かっていこうではないか。透析のTAVIは簡単ではないことは明らかだがその治療は我々のためではない。患者さんが待っているものなのだから。私も一人のTAVIstとしてOCEANのメンバー、日本のメンバーとともにその頂を目指していこうと思っている。

最後に

実は私に登山という趣味は全くない。むしろ2階に登るのさえエレベータをまつほどの階段嫌いなので山に登るというのは私にとって趣味にはなり得ないものであることは最後に断っておく。