構造的心疾患(SHD)カテーテル治療の多施設レジストリーグループ『OCEAN-SHD研究会』
Optimized CathEter vAlvular iNtervention Structual Heart Disease

youtube
instagram
facebook

ブログ

“MitraClipで心臓移植を回避できるのならば”

2022年10月31日  著者:山口 淳一(東京女子医科大学 循環器内科)  MitralSHDの最新話題


2009年か2010年か、今となっては記憶も定かではないのですが、私がCCU室長をしていたときの重症心不全患者の治療において、重度の僧帽弁逆流が低心拍出量症候群の原因と考えられた症例を経験したことがありました。その後に出かけた海外の学会で、カテーテル的に重度の僧帽弁逆流を制御できるMitraClipなる方法があるらしいこと知ったのですが、経食道エコーガイドの僧帽弁に対するカテーテル治療は、当時の私にとっては夢のような話でした。当時はTAVIも日本での治験が始まるかどうかというタイミングで、その先の僧帽弁逆流に対するカテーテル治療が日本に導入されて、東京女子医科大学の患者さんに提供できる頃に自分は何をしているのだろうと思ったことを、今でも鮮明に覚えています。その後、いろいろなめぐり合わせも重なって、自分自身が治療手技を行う立場で、MitraClipに治験の最終段階のところから関わらせていただく機会を得ることができました。これまで経験したことがない経食道エコーガイドのカテーテル治療は新鮮であるとともに、患者さんの自覚症状の改善にこれほどまで寄与できるのかということも実感して、気がつけばあっという間に6年の月日が経ち、未だ東京女子医科大学でカテーテル治療をしている自分がいることも、また驚きであります。

この間、心臓移植施設である東京女子医科大学では、循環器内科医師・心臓血管外科医師および多職種からなるBIND teamという体制を構築して、重症心不全治療の治療に取り組んできました。MitraClipは重症心不全患者の重要な治療選択肢の一つでありますが、心臓移植を検討するような患者にどのような影響を与えるのかということは、これまで誰も経験したことがない領域です。そのような症例を何例か経験したときに、2020年に発表された”MitraBridge Registry”に関する論文を読むこととなりました。この論文では、心臓移植リストに載っている患者、心臓移植のリストに乗る最終段階まで到達している患者、そして心臓移植の候補となるかを検討している患者を合わせた119名の重度の僧帽弁閉鎖不全症を有する重症心不全患者にMitraClip治療を行い、主要エンドポイントを全死亡、緊急の心臓移植あるいは左室補助デバイス(LVAD)導入および心不全入院として、1年後までの経過を報告しています。患者背景としては、平均年齢58歳、95%がNHYA III-IV、INTERMACS profileは3-4が37%、5-6が43.5%、7が16%で、6ヶ月以内の心不全入院歴が61.5%、ICD・CRTがそれぞれ76.5%・38%で植え込まれており、内服はACE/ARB/ARNI86.5%、βブロッカー89%、MRA85.5%、ループ利尿薬95%となっていました。1年までの主要エンドポイント回避率は64%という結果でしたが、これ以外に私が注目したのは、MitraClipにより心臓移植適応から外れることができた患者が全体で23.5%いた(内訳は、心臓移植リストに載っている患者で16%、心臓移植のリストに乗る最終段階まで到達している患者で22%、心臓移植の候補となるかを検討している患者で29.5%)ということです。

私達の施設、東京女子医科大学に紹介されてくる心臓移植検討患者さんに対して、薬物療法では太刀打ちできない場合にはLVADを含む補助循環装置を導入して心臓移植を待つしか、これまでは方法がなかったわけですが、重症の僧帽弁逆流がある場合には、それに介入することでこれまでなかった光明が開ける可能性を示したこの報告は、私にとって非常にインパクトがあるものとなりました。BIND teamともこの報告を共有して、 “MitraClipで心臓移植を回避できるのならば”、それは一体どんな患者像で、至適なタイミングはいつなのか?この問いに答えることができるよう、今後も本学における心臓移植を検討するような患者に対するMitraClip治療を、1例1例積み重ねていきたいと考えているところです。

最期になりますが、歳を重ねても尽きない私のカテーテル治療への興味が多くの患者さんの役に立つものとなるよう、OCEAN-SHDの皆さんとともに質の高い日本人のエビデンスを作ることに貢献できればと思っております。これからもどうぞよろしくお願いします。

*Godino C, Munafò A, Scotti A, et al. MitraClip in secondary mitral regurgitation as a bridge to heart transplantation: 1-year outcomes from the International MitraBridge Registry. J Heart Lung Transplant. 2020; 39: 1353-1362.