構造的心疾患(SHD)カテーテル治療の多施設レジストリーグループ『OCEAN-SHD研究会』
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冠動脈をいかに確実に保護するか?

2022年10月31日  著者:髙木 健督(国立循環器病研究センター 心臓血管内科部門冠疾患科)  SHDの最新話題TAVI


TAVI治療が保険償還されて10年が経ち、デバイスの進歩や多くの経験を積むことで手技が確立され、現在TAVIにおける合併症は減少しましたが、いまだ術中の冠動脈閉塞は大きな課題として残っています。特に予期せず冠動脈が閉塞した場合には、Bail-outできないと予後を著しく毀損することが報告され、冠動脈を保護すべきか判断に迷う場合は、積極的に冠動脈保護を行うと事が推奨されています。以前より冠動脈保護の安全性については、Ocean-TAVI registryから山本先生により報告されていますが、protectしていない症例においても0.5%の患者において冠動脈閉塞していたことは(1)、CTでの評価だけでは完全に予想できない可能性を示唆しています。そのため、Valvuloplasty時の造影を追加すると、CTだけではなく判断材料となるため、選択肢の一つとなるのではないでしょうか。

TAV in SAVではBASILICA techniqueを用いて人工弁弁尖を破る事で冠動脈への影響を最小にする方法が海外を中心に報告されていますが、初回の自己弁に対するTAVI症例には難しいのではないでしょうか。そのため、冠動脈開口部が低い患者、Valsalva洞が使用する弁輪に対し小さい患者に対して冠動脈保護が必要となる事が多く、場合によってはstent留置が必要となります。SAPIEN-3を使用した時の冠動脈保護やstent留置に関しては、概ね方法論が確立していると思われますので、本稿では割愛させて頂きます。実臨床では、狭小弁輪や高度石灰化を伴う大動脈弁に対しEvolutePROがSAPIEN3よりも適しているものの、冠動脈閉塞リスクが高いため、EvolutePROの使用を躊躇う事が多いのではないでしょうか。そこで、本稿ではEvolutePROにおけるChimney stentingについて紐解き、tips and trickを含めてコメントをさせて頂きます。

現在、Chimney stentingについての報告は、Case reportが中心であり体系的な報告は60症例をまとめた2020年Jacc interventionからの報告に限られています(2)。この報告より重要なデータを以下に抜粋します。

・0.5% of 12800 TAVR

・Evolute PRO/R 65%

・LCA 81.6% RCA 8.3% LCA&RCA 10%

・Stent length 19±6.8, size 4.1±0.5 mm

・Post dilatation 50%

・Second chimney stent 18.3%

・Difficulty engaging LMS /RCA 16.6%

・Guide extension required to engage 11.6%

・KBT(Chimney stenting & THV) 3.3%

・CPR 20%(多くは非保護症例)

この報告から最も重要なことは、①血行動態の破綻に備え、temporary MCSが迅速に対応できること、②いかに冠血流を維持し途絶えないようにするかの工夫(protectの重要性)、③Chimney stenting後のデバイス通過のrootを確保することの3点になります。その中でも技術的に重要な点は、③についてです。THV留置後にstent deformationが生じると、生じてからでは追加のstentやpost balloonが通過しないリスクが増加します。そのため、guide extensionの使用やKBTを行う必要がある事がデータからは読み取れます。

ただし、この報告にはいくつか問題点があります。その中でも、IVUS使用率が5%と低いこと、使用したstent径もmedian 4.1±0.5 mmであり、冠動脈へのstent圧着は不十分であった可能性が高いと思われます。また、使用stent長も20mmであり、実際にchimneyを行うには少し心もとない長さです。おそらく海外では、入口部にstentを留置し、その後の評価を行っていない、そして入れっぱなしになっているのではないでしょうか。実際の左主幹部は5mmステントでも入口部のみの留置となると、血管径が5mm以上ありstent圧着が不十分で安定しない事を経験します。そのため、分岐部を跨いで、Cross-over stentingが必要な症例が多く、より長いstentが必要になります。慢性期ステント血栓症リスクを減らすために、Chimney後であってもmalapositionをできるだけ減らし, 分岐部を十分に処理することが重要になります。そのためには、stent留置後に確実に追加デバイスを通過させる方法が必要となり、guideカテーテルをballoon deflationのタイミングでステント内に進めたり、guide-extensionを利用するといった工夫が必要になります。特に冠動脈が低い場合には、自己弁やTHVスカートにより完全に閉塞してしまうため、snorkel法でのbail-out方法は不可能になります(3)。また、日本人はValsalva洞が小さいため、2nd stentingが必要になるケースが多くなると予想される事から、stent deformationに備えることがchimney stentingを安全に確実に行う上で重要になります。

最後に、chimney stentingを行う際に筆者が心がけている点について少しまとめておきます。①THVを最後まで展開する前に、guideカテーテルのバックアップを様々な方向に動かし、stent位置決めのシュミレーションを行い、guideカテーテルを引いた後に同じ位置に戻せるかどうかの確認や、デバイスをより抵抗なく通過さることができるcoaxiallyを前もって確認しています。②狭小Valsalva洞や、IVUS評価でTHVとAscending aortaまでの距離が圧排されているケースではstent deformationにより追加stentが必要になるケースが多いため、guide-extensionを前もって準備するようにしています。③経験は限られますが、LCAよりもRCAのchimneyの際にバックアップがより不十分になる可能性が高く、完全留置前の評価をより慎重にしています。④guideカテーテルの選択は、Sapien-3の時にはJR, バックアップカテを使用し、EvolutePROの際には、フレームに影響を与えにくいJR、JLを選択していますが、術者の好みもあるため判断は、現場で決めて頂ければと思います。

以上、chimney stenting中心に冠動脈保護についてコメントをさせて頂きました。また、皆さんと一緒にchimney stentingの治療方法をブラッシュアップしていきましょう。

1.     Yamamoto M, Shimura T, Kano S et al. Impact of preparatory coronary protection in patients at high anatomical risk of acute coronary obstruction during transcatheter aortic valve implantation. Int J Cardiol 2016;217:58-63.

2.      Mercanti F, Rosseel L, Neylon A et al. Chimney Stenting for Coronary Occlusion During TAVR: Insights From the Chimney Registry. JACC Cardiovasc Interv 2020;13:751-761.

3.     Burzotta F, Kovacevic M, Aurigemma C et al. An “Orthotopic” Snorkel-Stenting Technique to Maintain Coronary Patency During Transcatheter Aortic Valve Replacement. Cardiovasc Revasc Med 2021;28s:94-97.