構造的心疾患(SHD)カテーテル治療の多施設レジストリーグループ『OCEAN-SHD研究会』
Optimized CathEter vAlvular iNtervention Structual Heart Disease

youtube
instagram
facebook

ブログ

Million dollar question – TAVI弁の耐久性 – 

2021年12月28日  著者:東海大学 大野洋平  TAVISHDの最新話題


「先生、TAVIで使用する弁はどのくらい長持ちするのでしょうか?」

という質問は、TAVIに関わったことのある者であれば、必ず一度は患者さんからいただいたことがあるのではないでしょうか。「誰もが知りたいけれども、正直誰もまだ答えのわからない究極の質問」というニュアンスで、Million dollar questionという表現は英語でよく使われます。TAVIの領域において、この「究極の質問」に相当する質問はいくつかありますが、TAVI弁の耐久性こそが、究極のMillion dollar questionではないか、と考えます。もちろん、この究極の問いも、数年後には、答えが出るわけですが、現状での「考え方」並びに我々の研究について少し書いてみたいと思います。

 

重症大動脈弁狭窄症の患者さんに対する治療オプションとして、TAVIとSAVRがあり、患者さんそれぞれに最適な治療方法を選択することが極めて重要であることは、前回のブログで田端先生が書かれている通りであります。一般的に、SAVRの場合、生体弁はどれくらい長持ちする、と患者さんに説明しておりますでしょうか?おそらく10〜15年程度、と説明するのが一般的であると思います。ただし、正確には、これまでの論文の中で、最も長期に、良い成績が出ている生体弁の話、ということになります(外科生体弁にも様々な種類があります)。外科生体弁機能不全に対するTAVI治療(Valve-in-valve、TAV-in-SAV)を行うようになって、5年以内で弁劣化を生じて心不全で我々の目の前に現れる患者さんを目にすることも珍しくありません。

 

さて、TAVI弁はどれくらい長持ちするのでしょうか?TAVIが世界で最初に行われたのが、2002年、本邦への導入が2013年であることを考えると、もう10〜15年の成績は出ているのでしょう?と思われる方が多いかと思います。実は、そうではないのです。TAVIは当初、SAVR不能例やハイリスク例を中心に実施されていたため、TAVI弁の寿命が来る前に、患者さんの寿命が来てしまい、TAVI弁の耐久性を検証することができなかったのです。その後、TAVIデバイスの進化、ハートチームの経験などのおかげで、SAVR低リスク含むあらゆるリスクの患者さんにTAVIの適応が広がったことで、現在徐々に耐久性のデータが出つつある状況です。現時点では、「5年は問題なし、8年のデータも今年出て外科生体弁と遜色なし(Jørgensen TH et al. Eur Heart J. 2021)、10年以降のデータはまだ十分ではありません」と答えるのが妥当であると考えます。

 

このように、大規模臨床研究の長期データを待つ一方で、なぜ生体弁の劣化が起こるのか?という問いにも答えていかなければなりません。それは、生体弁の検体を一個一個丁寧に検証していくという作業の積み重ねが必要となります。我々、東海大学には、心血管病理ラボ(CV Hills, 通称Gラボ)という、現近畿大学循環器内科教授の中澤学先生が立ち上げた病理ラボがあり、現在鳥居翔先生が引き継いで日夜あらゆる心血管デバイス(冠動脈・末梢血管ステント、TAVI・SAVR弁など)を病理学的に検証しております。「剖検例およびに弁膜症手術例における弁膜症疾患病理解析レジストリー」という登録研究*を開始しており、OCEANメンバーならびにALL JAPANの協力をいただきながら、「なぜ生体弁の劣化が起こるのか?」というもう一つのMillion dollar questionに答えていきたいと思っております。

 

*本登録研究に興味ある先生は、是非ご連絡ください(yohei_ohno@hotmail.com)。