構造的心疾患(SHD)カテーテル治療の多施設レジストリーグループ『OCEAN-SHD研究会』
Optimized CathEter vAlvular iNtervention Structual Heart Disease

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ほんとにローリスク? ―ローリスクTAVI とLVOT calcium―

2021年9月14日  著者:東京慈恵会医科大学、仙台厚生病院 宮坂政紀  会員のつぶやき


循環器内科 宮坂先生

後輩に一向に理解してもらえなかったことについて書きたいと思います。

「ローリスクTAVI」とそれに関係する「LVOT calcium」の話です。

元来TAVI(Transcatheter aortic valve implantation/replacement)は外科的大動脈弁置換術(SAVR: Surgical aortic valve replacement)の手術リスクが高い患者への重症大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療として導入され、発展してきました。術前評価、手技、デバイスの洗練によりTAVIはより安全に施行可能となり、この10年の間に世界でTAVIはより若い患者やローリスク患者への適応が広がってきました。本邦でもローリスク患者に対するTAVIが2021年に承認されました。今後、デバイスの保険償還が整い次第、全国のTAVI施行施設でローリスク患者へのTAVIが開始される予定です。

 

ローリスク患者へのTAVIの承認のきっかけとなったPivotal Trialは主に2つです。PARTNER 3 trial と1、Evolut low risk trial 2です。ローリスクのSevere AS患者に対して、TAVI vs.SAVRのRCTが行われNEJMに2019年に掲載されました。TAVIはSAVRに対して同等あるいは同等以上の成績をおさめました。これらの結果をうけ、TAVIローリスクは解禁の運びとなっています。

 

ここで注意したいのは「ローリスク」という単語です。2010年代前半に行われたハイリスク患者に対して行われていた研究には「手術ハイリスク」の人達が含まれていましたが、上記ローリスク研究に含まれる人達は「外科手術のローリスク」かつ「TAVI手技のローリスク」であるいうことです。ローリスクと言えば、TAVIローリスクも含まれることは当然のように感じる方もいると思いますが、「TAVIを考慮する前にまずはSVARのリスク評価をする」というフローに慣れきった(私のような)者にはトリッキーに感じられます。

 

「TAVI手技のローリスク」ではない人たち、すなわち「TAVIハイリスク」の人達(厳密にはNot TAVI low risk だから、TAVI中等度リスクの人達も含むわけですが、言い回しもややこしくなりますし、明確な定義もないので、ここでは「TAVIハイリスク」としておきます。)は上記2つのローリスク研究から除外されています。このことは各論文のExclusion criteria に記載されており、TAVIローリスクを考える上では、二尖弁とLVOT calciumがポイントです。

 

PARTNER3の論文から具体的に見ていきます。まずExclusion Criteriaから二尖弁は除外されます。さらに、”Other anatomical features that increased the risk of complications associated with either TAVR or surgery“と続きます。このOther anatomical featuresの全容は明かされてはいませんが、Supplemental material の62ページにCase review committee によって研究から除外された理由のTop5は掲載されています。その除外理由の1位はSevere LVOT calciumで除外理由の38%に上ります。次にEvolut Low risk trialの論文です。Supplemental materialではPartner3同様に二尖弁は除外、その他は “Those with prohibitive anatomy for TAVR such as LVOT calcification”と記載があります。LVOT calciumはProhibitive risk の場合に除外されるというように読み取れますので、Partner 3に比べると、LVOT calciumが理由となった除外症例の割合は少なそうな印象を受けますが、こちらの研究ではLVOT calcium が理由でどの程度除外されたかに関しての記述はありません。以上からわかることは2つです。TAVIローリスクには「二尖弁は含まない」、「LVOT calciumがあると除外される可能性がある」です。

 

最後に上記のローリスク研究でも除外基準に入っているLVOT calciumの定義についてです。LVOT Calciumは大動脈弁輪破裂やParavalvular leakageのリスク因子と考えられています。LVOT calcium定義には左室流出路の石灰化だけでなく、大動脈弁輪部の石灰化も含みます。LVOT calciumの重症度はmild, moderate, severeとカテゴライズされます。重症度の評価方法としては、2013年CirculationのMarco Barbanti先生の論文3のCTでの半定量評価を用いた定義が用いられることが多いですが、その方法だと弁輪の尖った石灰化のような、いかにも大動脈弁輪破裂のハイリスクと思われる石灰化を拾い上げることができないことがあります。よって実臨床ではSCCTのガイドラインに掲載されているように「内腔に突出する石灰化」は重度と見なすことが現実的と思われますし、実際にそのようにリスク評価されていること多いと思います。4 5 この記事にLVOTの重症度評価のための画像添付はできませんので、引用文献(2021年版SHDカテーテル治療のガイドライン)のリンクを貼り付けておきます。

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Sakamoto_Kawamura.pdf

 

TAVIローリスクの研究には「二尖弁は含まない」、「Severe LVOT calciumも含まない(可能性がある)」という話でした。お付き合いありがとうございました。

 

 

  1. Mack MJ, Leon MB, Thourani VH, et al. Transcatheter Aortic-Valve Replacement with a Balloon-Expandable Valve in Low-Risk Patients. N Engl J Med. 2019;380(18):1695-1705.
  2. Popma JJ, Deeb GM, Yakubov SJ, et al. Transcatheter Aortic-Valve Replacement with a Self-Expanding Valve in Low-Risk Patients. N Engl J Med. 2019;380(18):1706-1715.
  3. Barbanti M, Yang TH, Rodes Cabau J, et al. Anatomical and procedural features associated with aortic root rupture during balloon-expandable transcatheter aortic valve replacement. Circulation. 2013;128(3):244-253.
  4. Blanke P, Weir-McCall JR, Achenbach S, et al. Computed Tomography Imaging in the Context of Transcatheter Aortic Valve Implantation (TAVI)/Transcatheter Aortic Valve Replacement (TAVR): An Expert Consensus Document of the Society of Cardiovascular Computed Tomography. JACC Cardiovasc Imaging. 2019;12(1):1-24.
  5. 2021年改訂版 先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患 (structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン. 2021.