構造的心疾患(SHD)カテーテル治療の多施設レジストリーグループ『OCEAN-SHD研究会』
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LAAC前の煩わしいSludgeへの新しい対処法!

2023年11月10日  著者:佐地 真育(東邦大学医学部内科学講座 循環器内科学分野)  LAACSHDの最新話題


 WATCHMAN FLX Device (Boston Scientific)は非弁膜症性心房細動に対する新世代の経カテーテル左心耳デバイスとして2021年に本邦で使用が可能となりました。それまで用いられていたWatchman 2.5 Device(Boston Scientific)と比較すると、飛躍的に治療の有効性、安全性が高まったと評価することができると思います。しかし解剖学的に治療困難な症例や術中のトラブルはまだまだ存在します。

 今回は、最近経験した症例で日常臨床でも有用だなと思ったことを、この場を借りて皆さんに共有したいと思います。

症例は83歳の女性、非弁膜症性の発作性心房細動(CHA2DS2-VASc score 7, HASBLED score 5)が脳梗塞を発症し、入院となりました。既往歴として透析を要する腎不全、洞不全症候群に対してリードレスペースメーカーが留置されて自脈50bpm程度で経過していました(リードレスペースメーカーを入れたもののバッテリー温存の為に多少の徐脈は経過見ていました)。ちなみに透析症例の心房細動は出血合併症が多いことがメタ解析から報告されており、透析学会からもワーファリン内服は原則禁忌となっていることから、ハートチームで経カテーテル左心耳閉鎖(LAAC)の方針としました。術前の経食道エコーでは洞調律にも関わらず左心耳内にSludgeを認めていたため、ヘパリン持続点滴を行いAPTT 50秒で管理をしていました。その後も発作性心房細動はありませんでしたが、念のため1か月の間をあけ、しっかりヘパリンを効かせたつもりでしたが、ハイブリット手術室に入り、経食道エコーを行うと、やはり同様にSludgeを認めました。以前にLAACの際にSludgeを認めた症例に対してイソプロテレノールの点滴により、Sludgeが消失し、LAACを完遂したという症例報告を見たことがあったので、もし術中に同様の血栓を認めた場合は、同点滴を行うことを術前にチームで相談しておりました。しかしふと、リードレスペースメーカーでペーシングをすることで脈拍を上げることでSludgeが消失しないかなと、思いつきました。ペーシング自体は特に本人に負担もないので、イソプロテレノールの点滴を準備する前にペーシングを行ってみて左心耳を観察しようということになりました。結果は、70ppmから始めて80ppmにしたところでSludgeは消失して左心耳内はClearとなったため、無事そのままLAACを行うことができました(1)。

 イソプロテレノールによる点滴は脈拍を上げることができますが、微調整は難しく、大抵は脈拍が必要以上に上がってしまいます(2)。また点滴の中止により脈拍は徐々に下がってきますが、通常、多少の時間を要します。これに比べてペーシングは必要な時間に必要な脈拍にすることができるので、よりスマートに脈拍を上げることができるといえます。一方、イソプロテレノールによる点滴で左心耳のSludgeが消失するメカニズムが未だ明らかでなく、脈拍が上昇する以外に左室心筋の収縮力、心拍出量、等がどのように関わっているか不明です。また同様にリードレスペースメーカーによる右室ペーシングに関しても心拍出量を上げるのか、もしくは左室拡張末期圧低下するのか等、明らかでない点が多く存在します(3)。ちなみに本症例は左心耳のFlowはペーシングの有無で大きな変化はありませんでした。(図1)

しかし経食道エコー上、ペーシングを行うとSludgeが消失したのは明らかであり、今後、研究が進むとこの辺りのメカニズムは明らかになると思っています。またそもそも論ですが、洞調律でもヘパリン抵抗性の左心耳のSludgeが存在することに驚きを感じました。Atrial cardiomyopathyというコンセプトが提唱されており、これはこれで興味深いですので、時間があったら見てみてください(4)。

いかがでしょうか。もしLAACのCandidate方で、Sludgeを認めたら、ペーシングを検討してみてください。本症例はCVITのCaseとして報告されていますが、もうやっているよ!という方や、他のご意見がある方は、私自身の手技のBrush upにつながりますので是非教えて下さい。

図1(文献#1より引用)

引用文献

1. Hosono K, Saji M, et al. Pacing for Better Visualization of the Left Atrial Appendage Prior to Transcatheter Left Atrial Appendage Closure. Cardiovasc Interv Ther 2023. In Press.

2. Pandey AC, Smith MR, Olson N, Price MJ, Gibson DN. When smoke does not always mean there is fire: using isoproterenol for better visualization of the left atrial appendage prior to transcatheter closure. JACC Clin Electrophysiol. 2019;5:136-137.

3. Herweg B, Roy D, Welter-Frost A, Williams C, Ilercil A, Vijayaraman P. His bundle pacing improves left ventricular diastolic function in patients with heart failure with preserved systolic function. HeartRhythm Case Rep. 2022;8:6:437-440.

4. Guichard JB, Nattel S. Atrial Cardiomyopathy: A Useful Notion in Cardiac Disease Management or a Passing Fad? J Am Coll Cardiol. 2017;70:6:756-765.

Guichard JB, Nattel S. Atrial Cardiomyopathy: A Useful Notion in Cardiac Disease Management or a Passing Fad? J Am Coll Cardiol. 2017 Aug 8;70(6):756-765.