構造的心疾患(SHD)カテーテル治療の多施設レジストリーグループ『OCEAN-SHD研究会』
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2020年弁膜症治療ガイドライン改訂について   僧帽弁閉鎖不全症とMitraClip

2021年1月29日  著者:天木 誠 (国立循環器病研究センター 心臓血管内科)  SHDの最新話題Mitral


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近年発展している低侵襲的外科手術の技術革新およびカテーテルデバイス治療は弁膜症の治療を大きく変化させている。このような背景をうけて弁膜症に対するガイドラインはACC/AHAおよびECSからは2017年に改定されたが、本邦は2012年に部分改訂された後、長年改訂が求められていた。2020年、本邦のガイドラインも大幅に改訂されたのでここで変更点をまとめたい。

 

一次性僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対しては大きな変更は加えられていない。これまで同様重症一次性MRでは、術後合併症、左室機能温存、生存率の点から弁形成術が第一選択であり、形態等の理由で弁形成術が困難な場合は人工弁置換術を選択する。無症候性であっても経験豊富な施設において弁形成術が安全に実施可能と判断される場合、重症一次性MRに対する早期手術も考慮される。近年右小開胸による低侵襲心臓手術や手術支援ロボット(Da Vinci®︎)も併用され、手術の垣根は低くなりつつある。

 

一方、不全心に併発することの多い二次性MRにおいては大幅に変更されている。これまで中高度MRと一つにまとめられていた二次性MRのフローチャートでは、重症と中等症に分かれた表記に変更された。二次性MRは左室が病態の主座であることが多く、まずは至適薬物療法や心臓再同期療法を含む十分な内科的治療を行う。それでも心不全コントロールが不良な場合、侵襲的治療介入を考慮する。治療法としてMitraClip®︎が選択枝として加わった。重症二次性MRで内科的治療を行っても心不全症状が残存し、EF≧30%である場合は手術と同等のクラスⅡbとした。本ガイドライン発表後に本邦でもMitraClip®︎の適応が米国同様EF≧20%と拡大した。本ガイドラインでは30%>EF≧20%であっても弁膜症チームによりカテーテル治療も考慮可能となっている。また二次性MRの重症度は前負荷や後負荷により変動するため、安定期に中等度でも心不全悪化時や種々の負荷により重症となる事を多く経験する。中等度であっても運動負荷エコーなどで注意深く評価してCABG適応があれば手術、なければ弁膜症チームによる検討でMitraClip®︎など侵襲的治療の適応を検討すべきと明記している。すなわち、これまで以上に弁膜症チームの役割が重要であることが強調されている。もう一点、今回のガイドラインでは世界に先駆けて心房性MRについての記載がある。治療としては手術がクラスⅡaとしたが、MitraClip®︎の有用性を示すエビデンスは乏しく記載はしていない。

 

2021年に入りACC/AHA弁膜症ガイドライン改訂が発表された。この中で、二次性MRに対するMitraClip®︎がついにクラスⅡaと手術のⅡbよりも有益であることが記載された。ただし2018年のCOAPT trialの結果も踏まえて、薬物療法後も症候性でEF20-50%の重症二次性MRで、左室収縮末期径≦70mm、肺動脈収縮期血圧≦70mmHgで解剖学的に適している症例に限定していることを留意すべきである。またここでもEF≧50%の心房性MRにおいては手術が推奨されている(クラスⅡb)。

これらの結果を受けて本邦でも益々カテーテル治療による弁膜症治療が注目されると思われる。