構造的心疾患(SHD)カテーテル治療の多施設レジストリーグループ『OCEAN-SHD研究会』
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アブレーション治療医が注目している左心耳閉鎖療法

2021年4月13日  著者:済生会熊本病院 心臓血管センター 循環器内科 岡松秀治先生  SHDの最新話題LAAC


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左心耳閉鎖療法は、出血のリスクが高く抗凝固療法を継続することが困難な心房細動患者に対する治療法として登場した。しかし、私たちのような心房細動に対するカテーテルアブレーション治療を行っている医師は、この治療に対して別の効果を期待している。それは、アブレーション治療によって左心耳隔離に至った症例に対して、塞栓症発症を予防する治療法としての左心耳閉鎖療法である。

心房細動に対するアブレーション治療の成績は、治療デバイスの進歩に伴い劇的に改善している。2018年11月から2019年9月にかけて当院で高周波アブレーション治療が行われた543人を検討したところ、術後1年の洞調律維持率は、発作性心房細動で89%、持続期間1年未満の持続性心房細動で83%と比較的良好であったが、持続期間が1年以上の長期持続性心房細動では、58%と満足いく成績ではなかった。長期持続性心房細動は依然としてアブレーション治療で根治をえることが難しい不整脈の1つである。
近年、長期持続性心房細動に対するカテーテルアブレーション治療の治療成績を改善させる方法として、左心耳隔離が注目されている。左心耳に不整脈源性があり、左心耳隔離をすると長期持続性心房細動であっても術後の成績は改善すると報告がなされた(Di Biase MD PhD L et al. J Am Coll Cardiol 2016; 68:1929–1940. )。しかし、左心耳の電気的な隔離は、左心耳興奮の消失を意味し、たとえ洞調律を維持しても塞栓症のリスクが相当に上昇することが容易に予想される。偶然左心耳が隔離された症例の26%で左心耳血栓の形成ないしは血栓イベントが生じたことが報告された(Rillig A et al. Circ Arrhythm Electrophysiol, 2016)。また、左心耳隔離の有効性をPropensity Score Matchingを用いて多数例で検討した報告で、左心耳隔離術後の洞調律維持率は高いものの、抗凝固療法を中断した場合に塞栓症イベントの出現頻度が9.1%と高いことが示された(Jorge Romero, MD et al. Circ Arrhythm Electrophysiol, 2020)。このように、左心耳隔離には有効性はみられるものの、左心耳隔離に伴う塞栓症のリスクが問題視されている。
このような状況に対して、近年興味深い報告がなされた。左心耳隔離を行った患者で、術後半年で洞調律を維持できている患者(1854人)のみを対象とした検討で、経食道心エコー検査にて左心耳機能を評価し、左心耳機能が保たれている症例(336人)では抗凝固療法は中止し、左心耳機能が障害されている症例(1518人)では抗凝固療法継続を強く推奨したというものであった(Di Biase MD PhD J Am Coll Cardiol, 2019; 74:1019–1028. )。左心耳隔離されているにもかかわらず、左心耳の機能が保たれているということが大きく違和感を感じる点ではあるが、おそらくは左心耳への伝導が再開し、左心耳の正常の収縮が回復している症例ということであろう。注目すべきはこのような左心耳機能が保たれている症例では、抗凝固療法を中止しても脳梗塞・一過性脳虚血発作の発症は1例もなかったのに対して、左心耳機能が障害されているため抗凝固療法を継続することを推奨されたにもかかわらず、何らかの理由で中断していた患者(432人)では、その16.7%で脳梗塞・一過性脳虚血発作を発症したという点である。注意すべきは、この患者群は半年の段階で洞調律維持ができている症例であり、その後の経過においてもその患者の大半は洞調律を維持しているという点である。この結果は、洞調律を維持できている症例であったとしても、塞栓症の予防に左心耳機能がいかに重要かということを示している。それに対して、左心耳機能が障害されている患者に対して左心耳閉鎖療法を行ったところ、98%で抗凝固療法は中止可能となり、塞栓症の発症は1.19%にまで低下している。以上の結果は、電気的に隔離された左心耳はやはり塞栓症のリスクが高いものの、左心耳閉鎖療法はこのような患者に対しても脳梗塞予防効果を有しているということを示している。
現在日本で積極的に左心耳隔離を行っている施設はほとんどないと思われる。しかし、意図せず左心耳隔離に至ってしまう症例や、不整脈の器質は同定できているにもかかわらず、心房のリモデリングが進行しており、アブレーション治療を行うと左心耳隔離にいたるリスクが高く、焼灼治療を断念する症例などをしばしば経験する。このような患者の治療として左心耳閉鎖療法が適応となれば、左心耳隔離に伴う塞栓症のリスクを増やすことなく不整脈の根治がえられる可能性があり、期待できる。もちろん、現在のところこのような目的での左心耳閉鎖療法の適応はない。また、左房のリモデリングが進行し、内皮機能も障害されていることが予測される症例であっても、留置されたデバイスが問題なく内皮化し、デバイス血栓を形成せずに経過できるのかもはっきりしない。しかし、現在のようにアブレーション治療の適応が広がっている状況において、左心耳閉鎖療法はアブレーション治療医にとっても注目するに値する治療デバイスであると考えられる。