構造的心疾患(SHD)カテーテル治療の多施設レジストリーグループ『OCEAN-SHD研究会』
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人生100年時代におけるSHD診療のあり方

2023年2月6日  著者:加賀瀬 藍(名古屋ハートセンター 循環器内科)  会員のつぶやき


 

 令和5年現在、あと4年で100年前が昭和になることを知っていますか?昭和生まれの私としては、少しショックではありますが、100年をより身近に感じる瞬間ではないでしょうか。人生100年時代と言われ、確かに外来診療でも元気な90歳超の患者さんが増えているな、と実感することが多いと思います。皆さんはどのように感じますか?

 日本の平均寿命は2020年で、女性が87.6歳、男性が81.5歳とされています。しかし、実際外来に来る75歳のおばあちゃんは、あと13年で亡くなるかというとそうではなく、平均余命で判断すると約15年後の90歳まで存命である確率が高いことが分かります(1)。

 世界で最も平均寿命の長い国とされる日本において(2)、75歳の女性の重症大動脈弁狭窄症に対し、外科的大動脈弁置換術を選択したとすると、約10~15年で生体弁の弁機能不全を発症する可能性が高いと言われています(3)。早くて85歳で再手術が必要となる訳ですが、その際にはTAV in SAVが最もよい適応となるでしょう。ただ、さらにその後にTAVI弁の機能不全に陥った場合はどうでしょうか。90歳以上で外科的大動脈弁留置術を選択できるでしょうか。もちろん、非常に極端な例ですけど。

 75歳以上、80歳以上といった年齢に囚われず、目の前の患者さん一人ひとりのADL、frail、comorbidityを見て、今の治療、次の治療、更にその次の治療の方針を含めたlife time managementを構築しないといけない時代となりました。

 先日のとある学会の超高齢化社会における抗凝固療法のセッションで、「経皮的左心耳閉鎖(LAAC)は費用対効果から言って、高齢者には検討しにくい」とのコメントがありました。果たしてそうでしょうか。LAACの費用は、DOACを8年間継続すると元がとれるということが欧米で報告されています。80歳女性の出血リスクの高い心房細動患者にLAACを行うと、抗凝固療法の費用の他、今後起こりうる出血・塞栓症による入院費用も削減できるかもしれません。

 この100年、日本でも世界でも、めまぐるしく歴史が流れ、多くのものが新しく生まれ、そして消えていきました。私たちが100歳を迎える時、心臓疾患治療にどんな選択肢が増え、そして消えているのでしょうか。果たして、その時にTAVIやLAACはまだあるのでしょうか。答え合わせが楽しみですね。

   1) 厚生労働省2020年版
   2) 世界保健統計2022年版
   3) J Am Coll Cardiol. 2017 Aug 22;70(8):1013-1028.