構造的心疾患(SHD)カテーテル治療の多施設レジストリーグループ『OCEAN-SHD研究会』
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「hdDOAC研究から考える」

2022年5月2日  著者:仙台厚生病院 中嶋正貴  SHDの最新話題LAAC


皆様はじめまして、仙台厚生病院 中嶋と申します。

この度、札幌東徳洲会病院 谷先生よりブログのバトンを頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。

今回議論の尽きないテーマである、後抗血栓療法にフォーカスしようと思います。

 

2019年に本邦に左心耳閉鎖術が導入され、現在様々な改良が加えられたWatchman FLXが使用可能となりました。当院でも2021年8月より使用経験を重ねデバイスの進化を実感しています。合わせて添付文書上の術後抗血栓療法プロトコルも改定されました。2.5では抗凝固療法はワーファリンのみ使用可能とされていたが、NOACの使用が公認されました。実臨床では広くDOACが使用されており、実態に即した改定が行われました。しかし、術後抗血栓療法プロコトルは実臨床に遅れを取っていると言わざるを得ません。現在も本邦の添付文書上は「術後45日:アスピリン+抗凝固薬、45日〜6ヶ月:アスピリン+チエノピリジンン系薬剤のDAPT、6ヶ月以降:アスピリン単剤(以後SAT; standard antithrombotic strategyと呼ぶ)」(図1)というプロトコルが踏襲されています。しかし、多くの患者さんが出血を起こしやすい背景を持ち、治療直後の抗血栓療法2剤併用による出血性合併症増加が指摘されています。一方でデバイス血栓症(DRT)は1.5-4%発生するとされ、予後に悪影響を与え、治療を行う側としては可能ならば避けたい合併症です。

2021年11月に有力な選択肢となりうる研究結果の報告(Della Rocca DG, et al. Half-Dose Direct Oral Anticoagulation Versus Standard Antithrombotic Therapy After Left Atrial Appendage Occlusion. JACC Cardiovasc Interv. 2021 Nov 8;14(21):2353-2364.)がなされました。「Half dose DOAC」と呼ばれるプロトコルを用いた研究結果です。「術後45日:アスピリン+半量の抗凝固薬、以後:半量の抗凝固薬(以後hdDOAC: half-dose direct oral anticoagulantと呼ぶ)」(図1)とよりシンプルです。なおhdDOACで使用された薬剤は、アピキサバン5mg分2、あるいはリバロキサバン10mg分1であり本邦の減量後用量と同様です。

本研究のInclusion criteriaは「18歳以上」「NVAF」「CHADS2≧2 or CHADS2-vasc≧3」の3点です。Exclusion criteriaは「術前の時点で長期抗血小板薬の適応」「術前の時点でDOAC減量基準に該当」です。2014-2019年に欧米の3施設でWatchman 2.5を用いて治療が行われました。対象患者は555例(SAT群が357例、hdDOAC群が198例)の平均年齢75.1±8.1歳、男性が63%、平均CHA2DS2-Vascスコア4、平均HAS-BLEDスコア3、です。

結果は患者背景に差はなく、平均13ヶ月間のF/U期間、hdDOAC群で血栓塞栓症・出血性合併症共にSAT群より著しく抑制されています(図2)。DRTは12例で発生し、全てがSAT群で発生しました(3.4% vs 0.0%; log-rank P = 0.009)。非手技関連出血もhdDOAC群で良好 (0.5% vs. 3.9%; log-rank P = 0.018)でした。Primary composite endpoint (DRT、TE、major bleedingの複合エンドポイント)はSAT群で9.5%、hdDOAC群で1.0% (HR: 9.8; 95% CI: 2.3-40.7; P = 0.002)でした。極めてImpressiveであり、「hdDOAC最高!」と飛びつきたくなる気持ちを抑えて、本邦での実臨床での適応が可能かどうかを検討してみようと思います。

 

有効性(血栓塞栓症の抑制効果)に関して

DRTはhdDOAC群で明瞭に抑制されています。また過去の報告でDRT発生時の凝固系活性化も報告されており、抗凝固療法がDRT抑制に有効であることは確定的と考えます。

一方で、DRTのRisk factorが複数報告されています(周術期心嚢液貯留、Non paroxysmal AF、Deep implantation、過凝固状態、Large deviceの使用、左房内のもやもやエコー、等)が、これらに関連する情報が本研究では欠損しています。そしてLimitationにも記載されていますがRCTではなく、患者割付は医師の裁量に委ねられています。「良い留置位置で、小さめのDeviceで、Paf、もやもやエコーなし、左房拡大も無い」といった典型的なDRTのLow risk caseであれば、最低限の抗血栓療法で十分でしょう。一方で「大きいDeviceが、やや奥に留置された、Long standing AFで、かつ血栓塞栓症と左心耳血栓の既往がある巨大左房症例」では、DRTのリスクに雲泥の差があります。このような症例をどのような“裁量”で割り付けたのであろうか?極端な例では有るが、SATとhdDOAC群に背景の差異、及び裁量の介在する余地が残されています。

現在術後抗血栓療法のRCT(FADE-DRT試験)が行われており結果に注目したい。

 

安全性(出血性合併症の抑制効果)に関して

本研究の症例像は、体格の情報の記載がありませんが、「DOAC減量基準に該当しない75歳前後の白人男性」です。そして本邦における適正使用指針と異なり、High bleeding riskが必要要件でありません。我々の治療対象の患者さんに、出血高リスク群が多数含まれることは自明です。特に脳血管障害においては、日本人は欧米人に比して出血しやすいと言われます。また今回の研究の対象となっていない、「DOACの減量基準に該当する高齢者」のようなより出血リスクの高い患者に対する安全性は不定です。

単純にこのプロトコルを適応出来る患者数は限定的であり、本邦においては今回のプロトコルより、更に低強度の抗凝固療法(例えばエドキサバン15mg分1)がより適切である可能性があります。またアスピリンが必要かどうかも定かではありません。

 

以上より、低用量抗凝固療法というコンセプトは理にかなっており有望です。本邦でも採用される例が増えると思われる。実際当院でも患者背景に応じて術後抗凝固療法を選択するようにしています。しかし塞栓症のリスクが高い症例、あるいは出血のリスクが高い症例で、hdDOACの用量設定が適切かどうかは不明です。OCEAN研究会の活動から、このような疑問に答えられるような報告を是非していきたいと考えています。