MitraClipG4のNon-central pathologyに対する新しいテクニックの提案 ～雄介先生が再び涙を流さない為に～

2022年7月17日  著者：佐地真育（東邦大学大森病院、榊原記念病院　循環器内科）  SHDの最新話題／Mitral

2020年9月からMitraClip G4 システムを用いたTranscatheter Mitral Valve Repair(TEER)が可能となりました。4つの違ったサイズのClipをどう使うかに関して、まだ個人の見解を超える明確な使用指針はありません。榊原記念当院ではXTWを積極的に使っておりますが、その経験が少し蓄積されてきたので、今回は是非このOCEANブログで、皆さんに共有したいと思います。従来のNTに加えて、長くて幅の広いXTWは把持力が強く、実臨床の感覚ではMR減少力は最強なのではと、感じております。特にGapの大きな幅の広いDMRに対するXTWは再発の原因ともなりうるBillowingを残しにくく、キレイにGraspingできるのでG2と比べて完成度が高いと実感しています。一方、Non-central pathology(A1-P1やA3-P3)は腱索への干渉や左室内のスペースが限られていることから、大きなデバイスの仕様については注意が必要です。腱索や左室心筋の突出が邪魔をして、うまく主病変をGraspingできないばかりか、ClipがStuckしてしまうと腱索を損傷して新たなMRを作る可能性があります。また腱索断裂がなくても、一時的な僧帽弁への干渉でMRが増強して、著明な血圧の低下を招くことがあります。待機的治療症例でこのフレイルなおばあちゃまにIABPか?!、とヒヤッとした経験も少なくありません。そこで、しっかりMR減少したいけどNon-central pathologyだからな、という症例に対して最近よくやっている当院のやり方(新しいテクニック?)を提案したいと思います。

症例は70代後半の女性ですが、呼吸機能が非常に悪いことからTEERとなっています。病変は大きなP3逸脱でEFは60％です(Figure 1A)。Figureをみてもらうと左室(特に心尖部の方は)に十分なスペースがないことがわかります(Figure 1B, 1C)。これは静止画ですが、患者さんの呼吸や、左室自体の収縮、拡張があることを考えると少し気を使うかと思います。榊原ハートチームでは逆流は斜めにLateral方向に吹いており、図のように逆流弁口の方向に合わせてPerpendicularにしてClipを留置することにしました。

本症例は左室でStuckし、そのうち一回は血圧30/-まで下がり、2回左房に戻りました。そして3回目は、通常のClip-armを60度にして左室にはいる方法を少し変えてやってみました。まず図のように病変直上で構えたら(Figure 1C)、そこで120度まで広げます(Figure 1D)。ここで場合によっては逸脱がある方の弁尖はClip-armに乗ってしまうことがあります。その後、前尖を超えるかどうかくらいまで最小限進めます(Figure 1E)。そして前尖を捉える為に150度程度まで素早く広げます。すると左室の中で僧帽弁に干渉せず、かつ弁尖が両Clip-armに乗った状態で安定します(Figure 1F)。もしこの動作がゆっくりすぎるたり、Clipを左室方向に進めすぎると、逆に弁尖を上から押してしまいMRが増え、血圧が下がってしまうことがあります。一旦弁の直下に入ってしまえば、あとはゆっくりPerpendicularityを確認したり、ゆっくり弁尖の評価を行い、問題なければGraspingします(Figure 1G, H)。また移動距離がMinimalだとズレもMinimalなのでそれもお勧めポイントかと思います。本症例は3度目のGraspでしたが、Trace MRにすることができ、患者さんも翌々日に自宅退院となりました(Figure 1I)。先日、半年後の外来に来ましたが、雑音は全くなく経過良好でした。

いかがでしょうか。いいね！と思われた方は皆さんも是非やってみてください。そしてもうやっているよ！という方や、他のご意見がある方は、私自身の手技のBrush upにつながりますので是非教えて下さい。

そして最後になりますが、このテクニックによっていつか雄介先生のTEAR(涙)がTEERとして患者さんに還元されることを期待してやみませんhttp://(https://ocean-shd.com/mitraclip%E3%81%A7%E3%82%82%E3%81%86%E6%B6%99%E3%82%92%E6%B5%81%E3%81%95%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AB/)。